北海道北部に位置するサロベツ湿原は、サロベツ川の下流域に広がる面積約230km2にも及ぶ広大な湿原である。この地域では、これまで農地造成や洪水氾濫防御を目的とした排水路整備などにより地下水位の低下が促されてきた。その結果、湿原の面積が縮小しつつあり、それを保全するには、地下水位の動向を知ることが必要であり、地下水流動の経時変化の解析を行う必要がある。サロベツ湿原の地下水流動解析においては、地下水位、透水係数あるいは融雪に関する観測データが少ないなどの問題がある。本報文では、寒冷積雪地域に位置するサロベツ湿原地下水の非定常流れの解析を目的に、地質統計手法、融雪推定手法と広域地下水流動解析手法を融合し、充分な情報が不足しているなかで融雪を考慮した地下水流れの解析を行うことのできる手法を提案した。最初に観測情報の不足に伴う地下水位空間分布の推定精度の低下を抑えるために、地形標高を補助的な情報として地下水位の空間分布を推定するROKMT法(Residual Ordinary Kriging with modified Trend)を提案した。その上で、有限要素法による定常地下水流動モデルを用いて、透水係数を同定する。さらに、融雪が地下水に与える影響を考慮するために、広域の積雪水量、融雪水量の空間分布を推定し、三角形メッシュ差分法(TFDM)法を用いて、非定常地下水流動シミュレーションを行う。実際には、この手法を用いて、1997年のサロベツ湿原地下水位の空間分布を推定するとともに、透水係数の空間分布を同定し、1998年1月~2000年12月の期間を対象に、サロベツ湿原の非定常地下水流動の解析を行い、本手法の妥当性を確認した。 |