北海道を代表する湿原の一つにサロベツ湿原がある。この広大で豊かな生態系を育む湿原はいくつかの自然的要因と人為的要因によって存亡の危機に立たされている。特に、当該地域においてはササ地の拡大による湿原固有の植生の喪失が懸念されており、その原因として地下水位の低下が指摘されている。この問題を考える上で、湿原全体の水循環の変化が地下水へ与える影響を把握する必要がある。そこで先ず実際ササの侵入が報告されている箇所を対象として、リモートセンシングデータと現地踏査から過去約20年間のササ地の拡大状況を判読した。これまでも、航空写真等から湿原植生の実態を判読した例はあるが、このたび高解像度のIKONOS画像と航空写真を用い、ササ地の変化を読み取ることに成功した。これは、感覚的によく言われる「ササが侵入している」という実態を初めて定量的に示したものである。また、地下水の解析を行う上では、正味の地下水涵養量(涵養率)を把握することが必要となる。そのために、数値フィルターによって流量データから地下水成分を分離し、それに基づいて涵養量を求めた。同時に湿原域の水収支も明らかにしたが、このようなアプローチから地下水涵養量の量的精度を高めた研究事例は他に見あたらない。また、上記で推算した涵養率と前年度報告した長期水循環モデルで推算した融雪量ほかを入力値として、融雪期の涵養量の変化や河川水位の変化による地下水への応答をシミュレーションした。以上の結果からササ地の拡大と地下水変化の因果関係を明らかにした。今回提案した一連の手法は、今後の湿原保全対策にも大いに活かすことが出来ると考えられ、いわゆる実務面での利用価値についても評価していただきたい。 |