流域スケールの土砂を含む物質動態は,河道や海岸,構造物の維持さらには水域の生態系を保全する上で考慮すべき重要な要素である.国の河川審議会では総合的土砂管理1)の必要性を報告している.総合土砂管理の一環として土砂量収支を求めた例としては,姫川,天竜川の事例が報告2)3)されている. [*]一方,現在までに多くのダムや堰などの横断工作物が建設され,生態系や海浜保全などの観点から排砂を行う事例も見受けられるようになってきた.ダムは大量の土砂も堆積させるため,下流側の環境を保全する為には適切な量と質の土砂を下流に供給してやる必要がある.ダム堆砂・濁水問題に関する研究と今後の課題については土木学会のレビュー4)に詳しい.一方,洪水環境下での掃流砂・浮遊砂観測は困難を伴いがちであるが,角ら5)は浮遊砂の観測機器の開発を進めており,実用化が期待されるところである.[*]本研究では,まず北海道のダム流域を対象として,平水時の土砂および水質成分の発生量と地質条件や植生条件との関連を調べた.ただし,これは平水時の調査結果から一般的傾向を見いだしたものであり,水環境へのインパクトの大きい洪水時の動向については,土砂流出の盛んな沙流川の二風谷ダムを土砂のコントロールポイントとして解析を進めた.はからずも,平成15年8月9日~10日にかけ,停滞前線及び台風10号が北海道太平洋沿岸に多大な被害をもたらした6).その際に貴重な観測データが得られ,既往の観測資料と共に,流域の物質量を推定する関係式を観測所毎に推定した.それらを用いて二風谷ダム貯水池の土砂収支を検証するとともに,洪水時の土砂濃度の推移から崩壊地の増大を推定し,平成4年の出水前後で急激に拡大した崩壊地面積との関連について考察した. |