流域スケールの水文・水質成分を初めとする水と物質動態は,河道や海岸,構造物の維持さらには水域の生態系を保全する上で考慮すべき重要な要素である.ところで、森林には流況を平滑化する水源涵養機能や、洪水時の流量を軽減する洪水緩和機能が備わっているという説がある.それを背景に、ダム機能に代替する森林整備による「緑のダム」論が一部で主張されてきた.一方で、森林機能には限界があり、「ダム」の代替機能を森林整備に期待することには無理があるとも主張されている.水収支的には森林があると蒸発散が増え、水資源上不利であることが指摘されているが、流況や水質流出特性については何が影響要因であるか?の数値的評価が必要である.北海道の河川流域はほとんどが森林で覆われているものの水文・水質特性はそれぞれで異なっている.このような流域要因と水文特性との関係は虫明らが流況と気候要因及び地質との関係を日本の太平洋岸域を中心に明らかにしていた例がある.それによると、低水流出は主に地質により影響を受けており、第四期火山性岩石、花崗岩、第三期火山性岩石、中生層、古生層の順で渇水比流量が高いことを明らかにしている.また、志水は全国のダム流域を対象に、低水流出には植生よりも地質が影響していることを指摘しており、さらに近藤が渇水比流量には流域の地質の他に山体容量が影響していることを示唆している.このように、流域の低水時における流出は、植生よりも地質や地形が影響しているとの見解が多く出されている.しかし,これらの研究では降積雪など積雪寒冷地の条件を踏まえた水文・水質の特徴は把握されておらず,その解明が本研究の目的の一つである.次に水質動態と流域要因との関係については,橘らが流量により水質負荷量が支配されると指摘しており,水質負荷量-流量関係式(L-Q 式)の定数から水質負荷流出が特徴付けられると述べている.また,太田らは石狩川流域において高水時と低水時それぞれのL-Q 式を立て,それらによって求められる水質負荷量と流域の土地利用との関係に着目し,土地利用別の水質負荷原単位を提案している.その後村上らにより太田らの研究をもとに,人為的な影響の少ないダム上流域を対象とし,土地利用の他に地質の影響を考慮した水質負荷原単位を提案している.以上をもとに、本研究では、流域条件(植生及び地質)が流出特性にどのように起因しているかを積雪域の気候要因を勘案しながら検討した.また,このような流域要因が水質負荷の流出形態にどのように影響を与えているかを見出すことを試み,河川計画上における基礎的な指標とすることを目指した. |