台湾島の雪覇国家公園(Shei-Pa National Park)には,タイワンマス(学名: Oncorhynchus masou formosanum)が生息1)している.サクラマスの近縁種とされるタイワンマスは氷河期の生き残りと言われ,標高1、700mを超える七家湾渓の数km区間にのみ生息している絶滅危惧種である.台湾政府はタイワンマスの孵化場を建設し,親魚から採卵,受精,稚魚の育成,放流を行っている.1940年代以前は七家湾渓以外の渓流にもタイワンマスが生息していたとされるが,現状ではタイワンマスの生息環境の多様性は十分なものとはいえない.こうした現状を改善するため,台湾政府は既存砂防ダムのスリット化や稚魚の放流など,タイワンマス資源の保全を進めている.鮭科魚類の場合,成長の段階に応じて上下流に移動することが知られているが,七家湾渓周辺には砂防ダムが設置されているため,魚類の移動を円滑にするためには砂防ダムへの魚道の設置が有効な手法といえる.七家湾渓流域は標高3、886mの雪山を源頭部に持ち,近傍の梨山雨量観測所(図-1)の2005年の年間降水量は4、250mmあることから、比較的土砂生産も多いものと想定される.こうした山間地の魚道維持上の問題として、堆積土砂の除去がある.竜澤2)らは反砂堆から形成される礫列の波長・波高理論から導かれる結果を魚道に適用し、プール部分に堆積した土砂が、反砂堆が形成される水理条件下で、分級作用により容易に排出されることを示している.一般に、射流条件下で発生した反砂堆上における河床せん断力の分布が上流側に位相ずれを起こす3)ことにより、反砂堆の峰の上流側では堆積傾向、下流側では浸食傾向を示すことが知られている.竜澤らの提案している魚道理論は、こうした反砂堆形成時の土砂水理現象を魚道設計に取り入れたものであり、維持管理が困難な山間地渓流の魚道構造として適するものと考えられる. [*]筆者らは,七家湾渓のステップアンドプールの波長,波高を現地調査により把握し,河床土砂の粒径分布を写真解析により求めた.これらのデータを用い,七家湾渓においてタイワンマスの移動の支障となっている砂防ダム(落差9m)に適用可能な礫列理論を基にした維持管理の容易な魚道構造を提案した. |