本研究においては,良好な産卵環境を保全・創出するための河川整備手法に関する知見を得ることを目的に,河川の自律作用によって形成される砂州地形を対象とし,異なる河川地形におけるサクラマスの産卵床形成について整理したうえで,産卵環境に影響を及ぼす地形的制限要因について検討した.さらに,上記の検討結果を踏まえ,良好な産卵環境を保全創出するための河川整備手法について考察を加えた.[*]研究の結果、以下の知見が得られた.[*](1)産卵床を砂州地形と非砂州地形に区分しi/iaで整理した結果,産卵床の大部分は砂州地形に集中し,特に砂州地形のi/ia<1.0の階級に対する選択性があることが明らかとなった.一方,非砂州地形においては,確認された産卵床数は少なく全ての階級において選択性は示されなかった.また,非砂州地形は砂州地形に比べ河床の凹凸が少なく,このことがサクラマスの産卵に対して制限要因の一つになっていることが示唆された.[*](2)産卵床が確認された方形区の大部分はi/ia<1.0,その下流の方形区については大部分がi/ia>1.0であり,産卵床が確認された微生息場所の河床材料組成は,砂州地形によって形成される河床勾配(ここではi/ia)の変化等,より大きなスケールの環境に影響を受けていることが示唆された. [*](3)砂州区分が交互砂州である調査地点(H2、 T2)は,交互砂州の形成領域区分図において単列砂州領域に区分された.一方,砂州区分が非砂州地形である調査地点(H4、 T4)は,交互砂州の形成領域区分図において砂州非発生領域に区分された.[*]以上のことより,河川の自律作用によって形成される砂州地形に着目し,河川の蛇行を保全することや川幅を広く確保し,河川整備箇所を交互砂州の形成領域区分図において砂州領域とする手法は,河床の凹凸を発達させ,これがサクラマスの産卵場所の微環境に影響を及ぼし,産卵環境を保全・創出する上で有効であると考える.それゆえ,本研究はサクラマスの産卵環境を考慮した河川整備事業を推し進める上で,有効な知見を提供するものと考えられる. |