【目的】サケ科魚類は,発信機装着手術時の麻酔から覚醒する時,エラを大きく動かすなど,通常時とは異なる挙動を示す。これは回復時に多量の酸素を必要とするためだと想定される。しかし,麻酔の覚醒時における酸素消費量について精査した研究はほとんどなく,発信機装着手術が魚体生理に及ぼす影響については不明な点が多い。本研究は,発信機装着手術終了後における,サケ科魚類の経時的な酸素消費量の変化を解析する目的で行った。[*]【方法】供試魚は,北海道千歳川に遡上したシロザケ(Oncorhynchus keta)のオス10尾・メス10尾の計20尾(平均尾叉長631.9 ± 60.9 cm)と,養殖ニジマス(O. mykiss)のオス14尾・メス14尾の計28尾(平均尾叉長504.8 ± 48.2 cm)を用いた。実験条件は,操作なし(コントロール),麻酔(麻酔薬;FA100),麻酔+ EMG 発信機(CEMG; Lotek 社)装着の3ケースを設定した。実験は,2010 年6 ~12 月に,流速可変式回流水槽を用い,麻酔・手術後の馴致1時間と,その後の臨界遊泳速度(U crit)に達するまでの酸素消費量を測定した。[*]【結果】両魚種の酸素消費量は,U crit 測定時より麻酔・手術後1時間で多く,メスよりもオスの方が多く,ニジマスよりも尾叉長の大きいシロザケの方が多い,という3点が明らかになった。本研究の成果は,麻酔・手術後の供試魚の運動能力回復具合の把握をする上での生理学的な基礎データとなり,さらに放流適時等の検討に役立つものと考えている。今後は,この特異的な酸素消費増大の要因が,麻酔自体によるものか,空気中への暴露によるものかを明らかにする必要がある。 |