【目的】北海道南部に位置する美利河ダムは、サクラマス(Oncorhynchus masou)が産卵のため遡上することが知られている。そのため、美利河ダムにはサクラマスなどの回遊魚を対象とした2.4kmの魚道が設置されている。しかし、サクラマス親魚の産卵期の遡上行動に関する既往研究は少なく不明な点が多い。本研究では、サクラマス親魚に発信機を装着するバイオテレメトリー手法を用い、魚道を含めた美利河ダム周辺におけるサクラマスの遡上行動の解明を目的とした。[*]【方法】2011年8~9月に、後志利別川に遡上したサクラマス31尾を捕獲した。発電放流口付近で捕獲した18尾はダム下流からの行動把握を行うため、MCFT発信機(MCFT2-3EM;Lotek社)を装着した。魚道付近で捕獲した13尾は魚道内における遊泳速度や定位位置を把握するため、EMG(筋電位)発信機(CEMG2-R11-35;Lotek社)を装着した。電波受信機(SRX_600;Lotek社)で両発信機からの電波を受信し、供試魚の位置情報とEMG値を解析した。さらに、超音波発信機(V9-2L-R64;Vemco社)は全供試魚に装着し、ダム堤体直下から発電放流口までの減水区間6か所および魚道内3か所に設置した受信機(VR2;Vemco社)により、サクラマス通過時の個体識別情報と時間を解析した。[*]【結果】産卵期のサクラマスのオスはメスに比べ、3倍以上の距離を移動することが明らかになった。魚道内を遡上する時、最も遊泳力を必要とする隔壁部でも巡航速度と大差ない遊泳力で遡上することが可能で、また魚道内で24日間定位した個体も観察された。美利河ダムの魚道は、サクラマスに遡上と休息の選択性を与え、遊泳能力内で自由に往来できることが証明された。 |