水資源を治水、利用の両観点から効率的に管理するために、流域水収支の検討は非常に重要である。正確な推定が困難な蒸発散量の把握は水収支の精度向上に不可欠となっており、美々湿原試験地と駒里牧草地において実蒸発散量の観測を行った。前回の報告で無降雪期に限定されていた気象観測を降雪期にも継続し、1年間の気象要素、実蒸発散量の推移として整理した。潜熱量、顕熱量を推定するため、美々湿原試験地では傾度法及び渦相関法を、駒里牧草地では傾度法及びボーエン比法を用いた。この結果、蒸発散量が最も多くなると考えられる夏季では潜熱量の割合が高く、植生からの蒸散量が大きな割合を占めていた。これらの方法のうち、観測される熱量の収支を手法別に比較し、より精度良く観測できる手法として美々湿原試験地では傾度法、駒里牧草地ではボーエン比法を用いて実蒸発散量を求めた。次に各手法で推算された実状春散量から蒸発散比(実蒸発散量/可能蒸発散量)を求めた。可能蒸発散量の計算には温度、湿度、風速、日射量など必要な気象データが少なく、蒸発散比を用いれば容易に実蒸発散量が求められ、広域を対象にした場合などに応用できる。蒸発散比は月別に求めた結果、美々湿原試験地では夏季に大きく冬季に小さい季節変化をしており、駒里牧草地では乾季にあたる7月に蒸発散比の低下が見られた。蒸発散比を用いて計算した結果、年間実蒸発散量は美々湿原試験地で411㎜、駒里牧草地で456㎜となった。 |