【目的】北海道南部に位置する美利河ダム上流部では、サクラマス(Oncorhynchus masou)のスモルトが春季に海へ降下を開始する。しかし、ダム上流のチュウシベツ川から魚道(海へ降下が可能)へとスモルトを導くために設置された分水施設内や、分水施設を通過した後の2.4kmの延長を持つ魚道内での降下行動は把握できていなかった。そこで本研究は、美利河ダム周辺におけるスモルトの降下行動を把握・解析し、分水施設および魚道の評価を行うことを目的に、スモルトに発信機を装着し降下行動調査を行った。
【方法】2014年5月に、電波発信機(Nanoタグ, 重さ0.31g: Lotek社)を、スモルト61尾の腹腔内に埋込み、分水施設の50m上流より放流した。スモルトの移動解析と個体識別は、電波受信機(Lotek社)を用いた。電波受信機は、分流施設内に4か所、魚道の最下流に1か所、後志利別川(ダムから約10km下流)に1か所の合計6か所に設置した。スモルトの降下行動調査は、放流後から6月末まで連続観測を行った。
【結果】分流施設の上流で放流したスモルトのうち、88%が分水施設に進入し、84%が魚道内へ降下することを確認した。施設の設計流量を超える融雪出水でもほとんどのスモルトは、分水施設に進入でき分水施設により魚道へ導かれることが明らかになった。この結果は、昨年行った調査結果とほぼ同じ傾向であった。さらにスモルトは、2.4kmの魚道やダムから10km下流までを数日間から約1か月かけて降下していることが判明し、個体によっては定位と降下を繰り返していることが示唆された。近年、融雪出水の時期や流量が変化しつつあることから、これらの変動に対応する降下行動の推定とその影響把握が今後の課題である。 |