森林生態系の窒素循環の実態を解明するためには、森林流域からのNO3-流出機構を、平水時だけでなく降雨流出時においても的確に評価する必要がある。本研究では、神奈川県丹沢山地大洞沢流域、東京大学千葉演習林袋山沢試験地、北海道鵡川、沙流川流域を対象とし、8渓流において降雨や融雪による出水時に集中的に渓流水の採水を行い、硝酸態窒素濃度及び安定同位体比を分析することにより、降雨・融雪出水時のNO3-の流出量及び起源の変動特性について検討した。
どの流域でもNO3-濃度と同位体比の変動パターンは共通しており、流量の増加とともに、NO3-濃度は上昇した。一方、NO3-の酸素安定同位体比は、出水開始時にピークに達し(0~10 ‰)、流量増加とともに低下した(-5~0 ‰)。この結果は、出水開始時に大気由来のNO3-の寄与が一時的に増加し、その後は流出するNO3-のほとんどが硝化由来であることを示している。この降雨・融雪出水時のNO3-流出起源の変動は、出水開始時に表面流などによって渓流に直接流入する水の成分の寄与が相対的に大きく、その後は流域内の地下水・土壌水の寄与が卓越する過程とよく対応しており、流域の水文過程がコントロールしていると考えられる。 |