【目的】北海道美利河ダムでは、2012年春期よりPITタグシステムを用いたサクラマスの降下調査を実施している。RFID技術を用いたPITタグシステムは、PITタグとアンテナ・受信機で構成され、PITタグ装着魚がアンテナ設置付近を通過すると、個体識別と通過日時が受信機に記録される。PITタグは電池が不要で長期間の使用が可能であるため、降下する幼魚に加え、産卵遡上する親魚も検知できることが期待される。本研究の目的は、PITタグ装着サクラマスの降下および遡上行動調査の有効性を解明することである。
【方法】2013/3/30から5/21にかけて、ダム周辺河川で514尾のサクラマス幼魚を採捕しPITタグを装着後、ダム上流のチュウシベツ川で放流を行った。アンテナは、美利河ダム魚道(延長2.4km)の上流端と下流端付近の2箇所に設置し通年稼働させた。
【結果】遡上日や遡上行動から勘案して親魚と想定される2尾のサクラマスが、美利河ダム魚道を遡上したことが確認できた。1尾は、2013/5/17に放流、2014/9/8に魚道下流に遡上し25日間魚道内に滞在した。その後、10/3にチュウシベツ川に遡上した。放流から魚道下流での再確認期間は478日間であった。もう1尾は、2013/3/30に放流、2014/8/13に魚道下流に遡上し43日間魚道内に滞在した。その後、9/26にチュウシベツ川に遡上したが、9/30には魚道上流まで、10/21には魚道下流まで降下し、11/2まで魚道下流付近で確認された。放流から魚道下流での再確認期間は501日間であった。今回の結果より、PITタグシステムはサクラマス同一個体の母川回帰確認に有効な調査手法であることが明らかになった。今後は、サクラマスの資源保護や魚道機能評価のために、放流尾数を増やしデータを蓄積する予定である。 |