【目的】東日本大震災の復興に向け,東北地方の高回帰性サケ創出プロジェクト(JST復興促進プログラム)を企画した。本研究は,プロジェクトのフェーズのうち,飼料改良によるサクラマススモルトの母川記銘能向上の効果について明らかにすることを目的とし,回帰率の検証を行った。
【方法】回帰率の現地試験は,2013~2014年に岩手県野田村安家川のスモルト1,500尾を用いて行った。餌料にはw3(不飽和脂肪酸の一種)を添加し,放流約2週間前から経口投与した。回帰率の検証にあたり,従来のリボンタグや鰭切除等の標識は,脱落や回帰個体の再捕獲等に問題があった。本研究では,標識が維持され,回帰個体が自動認識されるPITタグシステム(Biomark 社製)を導入した。本システムは,PITタグ(長さ12mm,重さ0.1g)の装着魚がアンテナを通過すると,個体識別番号と時刻が記録され,さらにIP電話回線を介して任意PCにデータが送信される。PITタグは,専用インジェクターを用いてスモルトの腹腔内に装入した。2013年にはPIT タグ装着影響による生残試験(約20日間)を行った。
【結果】生残試験による死亡率は0%であった。回帰試験では,2013年供試魚は成魚と推定される5尾が翌年8~10月に確認され,その回帰率は0.33%であった。安家川における成魚の回帰率は最高で0.11%であり,本試験では3倍の効果がみられた。2014年供試魚は,同年9月~10月に5尾が記録されている。本研究により,高回帰性サケの創出と回帰率の検証にw3餌料、PITタグシステムの有効性が示唆された。今後も試験を継続し,データを蓄積する。 |