河川のSSや栄養塩の流出量は、一般に流量との関係式を構築し、流量の連続データから推定・評価するのが一般的である。しかし、SSや栄養塩の濃度は必ずしも流量との相関は高くなく、長期的な流出負荷量の評価が困難であった。一方、近年、濁度計観測によりSS濃度の連続データが高濃度の範囲でも得られるようになりつつあり、栄養塩の流出量推定にSS濃度を指標とできる可能性がある。本研究では、存在形態別栄養塩(窒素・リン)濃度と流量及びSS濃度との関係を明らかにするために、鵡川及び沙流川水系の12地点において、2012年4月から2014年5月までの融雪出水及び降雨出水を対象に採水を行い、SS及び栄養塩濃度を測定した。総窒素(TN)、懸濁態窒素(PN)、総リン(TP)及び懸濁態リン(PP)の濃度は比流量に対して有意な正の相関が認められたが、ばらつきが大きい一方、SS濃度に対してはばらつきが小さかった。溶存態窒素(DN)及び溶存態リン(DP)は比流量、SS濃度ともに相関は認められなかった。N及びPの懸濁態存在比(PN/TN及びPP/TP)は、SS濃度により以下の式で近似できた。
P/T=SS/(a+SS) (1)
ここに、P/TはNまたはPの懸濁態存在比、SSはSS濃度、aはP/T = 0.5となるSS濃度を意味する係数である。回帰分析の結果、係数a(RMSE)はNで362 mg/L(0.136)、Pで9 mg/L(0.096)と推定された。水系別、出水タイプ別で回帰分析を行ったところ、a値には水系よりも出水タイプによる違いが認められた。栄養塩濃度の推定指標としてSS濃度は有効であり、さらに存在形態比も推定できることがわかった。したがって、SS、TN、TPを観測すれば存在形態別N及びP濃度も推定できるため、長期的な水質モニタリングにおいて分析項目を減らせる可能性がある。ただし、式(1)について、a値の季節変動や低いSS濃度における誤差などは詳細な検討が必要であり、今後の課題である。 |