【目的】北海道美利河ダムでは、ダム建設前(S52~57)、建設中(S58~H2)、建設後(H3~16)、魚道設置後(H17~26)の現在まで、様々な生息魚類調査を毎年実施しているが、調査結果の総合的な評価が行われておらず、当該事業の有効性やデメリットが不明確であった。本研究の目的は、ダム建設前から魚道設置後の現在までの長期間にわたるダム周辺(特に上流域)でのサクラマスの生息変遷を明らかにし、ダム事業の影響を定量的に評価することである。
【方法】美利河ダム周辺では、生息魚類調査、サクラマスの産卵床数・幼魚生息密度調査、サクラマス親魚の遡上数調査を実施していた。生息魚類調査は、魚類相の経年変化を評価した。産卵床調査は、魚道設置後における産卵床の分布動態を評価した。幼魚生息密度調査は、魚道設置前後の幼魚生息密度変化を評価した。親魚の遡上数調査は、魚道最上流端で撮影しダム上流への親魚遡上数と降下数の変動を評価した。
【結果】生息魚類調査では、ダム建設後にダム上流域の魚類相は単調化したが、魚道設置後には魚類移動の連続性が回復し、サクラマスが魚道を通じて分布を広げたことが明らかになった。産卵床調査では、魚道接続河川で産卵床数の区間別割合が増加傾向にあった。幼魚生息密度調査では、ダム建設前より魚道設置後で増加傾向にあった。親魚の遡上数調査では、毎年一定数の遡上が確認できた。一方、魚道が接続しないダム上流の3河川では、未だ、サクラマス親魚は分布しておらず、幼魚の生息数も回復していない。以上のことから、魚道はダム上流の魚類生息環境を徐々に改善していると評価できた。ダム建設や魚道設置の評価には、特に通し回遊魚の長期間調査が重要であることが示唆された。 |