気候変動や土地利用が流域・沿岸域環境に及ぼす影響を評価する上で、水・土砂・栄養塩の流出予測は重要である。米国の農地流域を対象としたSWAT(Soil and Water Assessment Tool)は、米国農務省(USDA)が開発した水循環、土壌侵食、栄養塩等の動態を再現、予測する流域総合評価ツールで、さまざまな水文過程が考慮された準物理モデルにより将来予測に利用可能な利点がある一方、膨大なパラメータの調整に困難を伴うことが少なくない。そこで、計測・観測値が入力可能なパラメータについては、可能な限り現地の情報・観測データを利用することで、不確定パラメータの数を減少させ、調整された値の妥当性を検討することが、モデルの再現精度向上に貢献すると考えられる。本研究では、現地の土壌調査資料を収集整理してSWAT用土壌データベースを作成し、鵡川・沙流川流域の日流量の再現を試みた。鵡川・沙流川の日流量(2010~2012年)を再現したところ、Nash-Sutcliffe効率(NS)で0.78及び0.79と比較的高い再現性が得ることができた。パラメータセットの妥当性を確認するために、7つの支流域で流量データを比較したところ、NSは0.56~0.72, R2で0.66~0.81と比較的再現性が高く、総水流出量では78%~100%と極めてよかった。流量の再現性には、地下水の寄与、滞留時間などが重要なパラメータとなるが、感度分析の結果、地下水遅れ時間のパラメータが流量に及ぼす影響が大きいことが示され、本研究では流域内で一律約40日であった。さらに精度の向上をはかるためには、トリチウムや安定同位体、CFCs等のトレーサによる地下水滞留時間を推定してパラメータ数を削減したり、地質や対象スケールによる滞留時間の違いを考慮するなど、観測研究との連携が必要であり、今後の課題である。 |