1.はじめに
河床堆積物が流出した岩盤河川において、構造物により河床礫の堆積を促し礫河床へと復元した場合、魚類の産卵床数等で評価が行われることが多い。しかし、構造物設置からの時間が短い場合、堆積物量が十分でなく、産卵床数等を用いて河川環境の復元効果を評価することは難しい。
底生動物群集は堆積物の量や質に大きな影響を受けることが知られており、岩盤河床の礫河床への復元効果を評価する場合にこれらの生物量を用いることが有効であると考えられる。しかしながら、そのような文脈で、底生動物を用いた復元効果の評価はあまり議論されていない。
札幌市を流れる真駒内川では河床の低下により岩盤河床となった河川区間に、河床低下防止や礫河床復元を目的として連続する帯工を設置したところ、土砂堆積がすすみ水生生物の生息環境に改善がみられている。そこで、本研究ではこの河川において帯工による岩盤河床から礫河床への復元効果を、底生生物を用いて明らかにした。
2.方法
調査は札幌市豊平川支流真駒内川で2018年11月に行った。豊平川との合流点より上流約5 kmから7 kmの間に岩盤区間、帯工区間および自然区間を設定した。これらの区間から代表的な瀬を5から3つえらび、それぞれの瀬の5箇所に底生動物採取地点を設けた。調査区間の川幅は約15 m、河床勾配は概ね1%で大きな違いはみられなかった。また岩盤区間と帯工区間は河川整備済みだが、右岸には自然河岸上に河畔林が保全され、左岸には法勾配5分(1: 0.05)の護岸と堤内地に住宅地が拡がっている。自然区間の河道は未整備であるため、両岸の急勾配の河岸上には樹木が残るものの、左岸には舗装道路が通りそのための護岸が設置されている。これらの調査区間の採取地点において、水深、流速、底質を計測し、その後に底生動物と粒状有機物を採取した。
3.結果及び考察
調査区間の生息環境は、水深、流速および有機物量(CPOM)に区間での大きな違いはみられなかった。しかし、岩盤区間の河床は岩盤であり、有機物(FPOM)は岩盤区間で少なかった。底生動物の個体数は区間ごとで違いはなかったが、岩盤区間の分類群数は自然区間より少なかった(Fig.1)。また、岩盤区間では多くみられる分類群と一方でほとんど出現しない分類群の両者がみられた。岩盤区間では、遊泳型で刈取食者であるコカゲロウ科が多く、ヒゲナガカワトビケラ属等の固着巣を造営する濾過食者や破砕食者のオナシカワゲラ科が少なかった。
このように生活型や摂食機能群の特性から特定の分類群を選び個体数を観測することで、帯工区間が岩盤区間とは異なる環境となっていることが明らかにできた。ただし、一部の分類群では自然区間とも違いが認められたことから、現在の帯工区間は自然区間と同じ環境であるとはいえないことも明らかになった。以上のことから、これらの分類群の個体数変化をモニタリングすることで帯工による礫河床復元効果を追跡できると考えられる
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