近年、既設鋼床版の疲労損傷事例が増加しており、対策の1つとして、鋼床版の上面にコンクリート等を増厚して一体化させて合成床版構造とすることが考えられる。著者らは、その増厚材料として、優れた引張性能を有する高靭性繊維補強セメント複合材料(Engineered Cementitious Composite)を適用する上面増厚工法を考案した。[*]ECCは、繊維の架橋効果により引張力を負担でき、一軸引張応力下においても擬似ひずみ硬化特性を示す。輪荷重により鋼床版に発生する局所的な引張力や、ECCの乾燥収縮および鋼床版とECCとの温度差により発生する温度応力に対して、ひび割れ発生後も繊維の架橋効果により引張応力を伝達してひび割れを拘束するため、ひび割れ幅抑制効果と合成鋼床版としての補強効果が期待できる。そのため、鋼床版のひずみや鋼床版の応力を低減し、疲労耐久性の向上が期待できる。[*]しかし、実橋にこの工法を用いた場合、鋼床版上の排水が十分に機能しない状態で、ECCが完全に水没下の環境に進展した場合、ECCが損傷しブロック化する現象が起こった。そこで、この損傷を模擬するための実験を行うとともに、滞水している水と輪荷重の作用により、間隙水圧が発生して損傷に移行するメカニズムの推定を行った。 |