近年、温室効果ガスの排出を原因とする地球温暖化の問題があります。また、石油など化石資源の価格高騰による様々な工業原料や燃料の供給不安の心配があります。そのような背景から、カーボンニュートラルの資源であるバイオマスは次世代のクリーンエネルギーあるいは工業資源として期待されています。北海道では大規模な酪農が営まれ、大量の乳牛ふん尿が発生しますが、このふん尿も有望なバイオマスの一つであり、嫌気性発酵により産出するバイオガスはメタン資源として注目されています。そこで、当研究所では乳牛ふん尿を集中処理するためのバイオガスプラント内に実証プラントを設置し、バイオガスから水素などの化学原料を製造する実証試験を行ってきました。[*] バイオガスからの水素製造では、バイオガスに約60%のメタンのほか約40%のCO2と、酸素、窒素、H2S、NH3、水といった微量成分が含まれることから、これらの不純物を取り除いた高純度メタンを原料としました。このメタンの水蒸気改質反応とCO変成反応により水素を生成し、PSA(Pressure Swing Adsorption)装置を用いて不純物を取り除くことにより高純度の水素を得ることができます。本実証プラントは200Nm3/dのバイオガスから純度99.99%の水素を280 Nm3/d製造することが可能です。[*] さらに、本プラントではゼオライト触媒を用いた脱水素芳香族化反応器を設置し、水素と有用化学原料であるベンゼンを同時に製造する実証試験も行ってきました。本プロセスでは生成した芳香族炭化水素を芳香族吸収塔で回収し、蒸留塔にてベンゼンを抽出しました。また、未反応メタンと水素の混合ガスは分離膜でリサイクルメタンを取り除いたのち水蒸気改質器に導入し、一層多くの水素製造を図りました。本プロセスでは200Nm3/dのバイオガスから純度99.99%の水素を130 Nm3/d、純度99%のベンゼンを8.4L/d製造することが可能です。これらの物質収支、エネルギー収支等からバイオガスからの水素とベンゼン同時製造システムの実行可能性を検証しています。 |