近年の土木工事には景観や生態系に配慮することが求められるようになってきている。それに加え、地球温暖化が問題視され、温暖化の原因とされる二酸化炭素の吸収効果が高い、樹木による道路のり面緑化へと、道路整備の基本方針が示されている。[*] 高木が優占する植物群落が成立可能なのり面勾配は1:1.7より緩勾配(30度未満)であり、雪崩が起こりづらいのり面勾配も30度未満である。1:1.8(29.1度)の切土のり面勾配はそのどちらにも適合する。[*] 緩勾配(1:1.8)の切土のり面について調査・検討の結果、以下のことが言える。[*]①周辺からの在来種の侵入が容易で、高木型への植生遷移が期待できる道路づくりが可能となる。[*]②切土勾配1:1.8の斜面は積雪深3m以上の豪雪地帯でも雪崩が起こりづらい斜面と言え、雪崩予防施設は設置不要と考えられる。[*]③用地費の低廉な地域で、道路縦断勾配を検討可能な時、背後に大きな山を背負っていないような場所などでは、土質・地質的安定勾配で切土するより、切土勾配1:1.8で計画した方が、道路建設費が少なくて済むことがある。[*]④1:1.8(29.1度)の切土のり面勾配では、雪崩予防施設が必要ないと考えられるので、維持管理費の低減が見込まれる。[*]また、1:1.2(39.8度)の斜面勾配で樹高10m以上になる高木を導入すると、根張り空間が十分には取れず、将来生育基盤が不安定になる恐れがあり、伐採する必要が出てくることが多い。しかしながら、1:1.8(29.1度)の斜面勾配は、高木でも根張り空間が取れやすいため伐採の必要性は少なく、維持管理費の低減が見込める。[*]⑤1:1.8の切土のり面は、雪崩予防施設が必要ないことから、人工構造物が少なく、緩い勾配による走行時の圧迫感の減少など、景観性と走行時安心感の高い道路沿道景観となる。[*] したがって、今後の積雪寒冷地の切土のり面設計においては、安易に標準勾配を採用するのではなく、供用後の雪崩抑止効果や、植生回復の有利性、道路景観などへの影響を考慮し、のり面勾配の比較検討を行うことが望ましいと考えられる。 |