積雪寒冷地である北海道の水田灌漑にとっては、雪は重要な水資源である。春の融雪流出水がダムを満たすとともに、河川流量を増大させる。融雪流出が小さくなるとともに、ダムの貯留水の利用を開始する。融雪流出水は、多量の用水を必要とする代かき・田植え時期の重要な用水供給源である。しかし、今後の気候変動では融雪時期が現在よりも早まることが予想されているため、この地域では気候変動が水田灌漑の水管理に与える影響を検討する必要がある。[*] このような背景から、北海道内の(1箇所の)水田灌漑用ダムにおける2031年~2050年の水収支を、流出解析により試算した。この研究では、まず1991年~2000年の気温・降水量・河川流量の実測値を用いてダムへの流入水を算出するタンクモデルを構築し、つぎにこのタンクモデルに2031年~2050年の気温・降水量の予測値を代入してダムへの毎日の流入水量を算出した。気温・降水量の予測値には、気象庁の地域気候モデル(RCM20)による予測値を利用した。RCM20の計算メッシュの1辺は、20kmである。[*] 計算の結果は次の通りである。融雪流出は、現在では5月末まで継続するが、将来は2週間程度早まる。それゆえ、(将来は現在よりも)ダムの貯留水の利用開始時期が早まるため、ダムの貯留水は現在に比べて渇水傾向となると予想された。現在は、米の生産調整がなされているが、もし生産調整を行わないと仮定した場合、20年のうち3/4程度の頻度で、用水不足が生じるおそれがあることが解った。 |