英国船級協会ロイドは第二次世界大戦後、溶接船の脆性破壊事故の調査を実施すると共にシャルピー衝撃試験を行い、その結果を基本として、鋼材の簡便な脆性破壊防止指標としてシャルピー吸収エネルギー値 47J を提示した。その後、鋼材の製法など大きく異なるにもかかわらず、何ら議論することなく、今日も簡便な靭性評価指標として用いられているが、その力学的意義については不明な点が多々ある。本稿では、寒冷地において50年以上供用された橋梁に用いられていた鋼材を対象に一連の実験を行い、得られた結果から、脆性破壊発生評価におけるシャルピー吸収エネルギー値 47J が有する力学的意義を検証する。[*]結果をまとめると以下の通りである。(1)英国船級協会ロイドによる調査が実施された時期(約50年前)から現在に至るまで、寒冷地の過酷環境下で供用された旭橋に使用されていた鋼材のシャルピー吸収エネルギー値が 47J となるのは、-30℃であった。(2)旭橋に使用されていた鋼材を CTOD 試験に供した結果、-45℃以下で脆性破壊することを確認した。(3)脆性破壊発生評価指標としてシャルピー吸収エネルギーの大きさは何ら力学的意味を持たず、0℃以下においても吸収エネルギー値 47J 以上を求めることは、過剰要求となる可能性を実験結果は示唆している。 |