凍結融解と塩化物の複合作用による劣化は,寒冷地のコンクリート構造物が受けやすい被害の一つである.コンクリートが凍結と融解の繰り返し作用を受けると,コンクリートの空隙に含まれる水分が凍結し,氷晶の形成に伴って発生する凍結圧によって空隙の壁面が破壊される.さらに,このプロセスに塩化物が加わると空隙壁の破壊は加速的に進行し,コンクリートの表層がうろこ状に激しく剥がれるスケーリングが促進される.これによって,かぶりコンクリートの損傷・欠損,水や塩化物イオンの侵入・拡散が促進され,鉄筋の早期腐食・露出に至り,コンクリート構造物の耐久性が大きく低下することが懸念される.[*]この劣化は多くの要因が複雑に組み合わさって発生するため,劣化予測は困難を伴い,未だ有用な設計法・対策工は確立されていない.このため,コンクリート構造物の耐久性の設計に支障をきたしている現状にあり,早急な整備が求められている.[*]この背景に鑑み,寒地土木研究所では,重点プロジェクト研究「土木施設の寒地耐久性に関する研究」に取り組んだ.この研究では,凍害・複合劣化の診断支援システムの開発,コンクリート構造物の劣化予測および実環境における凍害・複合劣化に対する合理的な耐久設計の確立,凍害等の劣化を受けたコンクリート部材の力学的性能の解明を目指す「コンクリートの凍害・塩害による複合劣化挙動および評価に関する研究」と,改良セメント,表面含浸材,短繊維,各種混和材の適用による耐久性向上効果を試験施工等によって検証し,設計施工法を確立する「積雪寒冷地におけるコンクリートの耐久性向上に関する研究」の2つの個別課題を設定し,研究を行った.[*]このうち,凍結融解と塩化物によるコンクリートの複合劣化に対する耐久性設計法の開発および表面含浸材を活用した劣化対策の効果の検証において,大変貴重な研究成果が得られたので,ここに報告する.[*]論文1「凍結融解と塩化物の複合作用によるスケーリングに対する耐久性設計法に関する研究」では,前半ではスケーリングの進行性の定式化およびスケーリングに対する耐久性設計法の確立を目的に行ったASTM C 672に準じた室内実験および実構造物(北海道沿岸の防波堤上部工天端面)での調査の結果について,後半では水や塩化物の供給を抑える効果を発揮するシラン系表面含浸材を用いた場合のスケーリングの進行抑制および塩化物イオンの浸透抑制の効果の評価を目的に実施した北海道の道路橋地覆での試験施工ならびに沿岸部での暴露実験の結果について述べている.前半は「コンクリートの凍害・塩害による複合劣化挙動および評価に関する研究」の成果,後半は「積雪寒冷地におけるコンクリートの耐久性向上に関する研究」の成果の一部に相当する.この論文は,北海道大学博士学位論文として取りまとめたものを一部再編したものである.[*]論文2「簡易で実用的なスケーリング進行予測式の提案」では,論文1で開発・提案したスケーリングの進行予測式の現場での運用性の向上を図るため,北海道内の道路橋の地覆コンクリートにおいて行ったスケーリングの進行予測の結果について述べている.[*]論文3「表面含浸工法による既設コンクリート構造物の鉄筋腐食抑制効果の基礎的評価」では,既設コンクリート構造物の延命化の社会ニーズに応えるため,適用範囲が基本的に新設・打換え部材に限定されている表面含浸工法の既設部材への適用拡大に向け,シラン系表面含浸材と鉄筋表面に防錆皮膜を形成する機能を有する含浸性防錆材による既設コンクリート構造物の鉄筋腐食抑制効果に関する実験の結果,さらに,実証的な評価を行うために行った稚内開発建設部管内の既設道路橋のコンクリート主桁での試験施工の結果について述べている. [*][*]目次[*]1.はじめに・・・執筆者:高橋守人、田口史雄、遠藤裕丈[*]2.(論文1)凍結融解と塩化物の複合作用によるスケーリングに対する耐久性設計法に関する研究・・・執筆者:遠藤裕丈[*]3.(論文2)簡易で実用的なスケーリング進行予測式の提案・・・執筆者:遠藤裕丈、田口史雄、林田宏、名和豊春[*]4.(論文3)表面含浸工法による既設コンクリート構造物の鉄筋腐食抑制効果の基礎的評価・・・執筆者:遠藤裕丈、田口史雄、山脇剛[*]5.関連論文リスト[*]6.おわりに・・・執筆者:高橋守人、田口史雄、遠藤裕丈 |