1. 研究の目的[*] 藻場が大規模に消失するいわゆる磯焼けの対策として,北海道内では10年以上前から防波堤や護岸等への藻場造成機能を付加した背後小段付き防波堤が整備されてきた.しかしながら,基質の経年劣化や近年の水温上昇等による藻場造成効果の低下が問題となっている.本研究では,過去に整備された施設の藻場造成効果低下の原因を把握し,機能回復手法を提案する.また,機能回復の一つとして実施した現地実証試験の手法並びに初期効果について検討する.[*]2. 研究内容[*](1)研究の対象は,北海道日本海側において自然環境調和型沿岸構造物である背後小段付傾斜堤(図-1)を有し,かつ磯焼けの影響を強く受けている寿都漁港とした.この背後小段付傾斜堤及び周辺の天然岩礁において,整備後の1998年より潜水調査を開始し,海藻繁茂状況(現存量等)の長期的な変遷を把握した.[*](2)藻場現存量の再現計算を実施したところ,従来のモデルでは冬期の海藻幼芽に対するウニの摂餌圧を過小に見積もり,近年の深刻化する磯焼けの状況に対応できない.そこで,これらの現象を正しく評価できるよう計算手法を改良したモデルを提案し検証した.[*](3) 藻場造成機能の回復手法の一つとして,根固方塊ブロックの嵩上げによる複数の断面形状での現地実証試験を2010年10月より実施した.実証試験では,潜水調査による海藻繁茂状況並びに現地観測と数値計算による流動環境の把握を行い,藻場の回復効果について検討した.[*]3. 主要な結論[*](1)背後小段上は天然岩礁以上の藻場造成効果を有しているが,その年の冬期水温に強く依存している.現存量は,冬期水温を用いた被食圧の関係式で算定され,水温約5℃を境界として低水温ほど現存量が大きいことが判明した.[*](2)水深約4mに位置する背後小段上の現存量は冬期水温と同様に年変動が大きく,現状の背後小段構造では藻場造成効果が継続して発現できない状況が明らかである.この理由として背後小段上は当該海域の植食動物であるキタムラサキウニが高密度に生息していること,さらには,冬期の高水温により本来休眠状態であるはずのキタムラサキウニの摂餌が活発となることから,海藻の幼芽・生長期に悪影響を与えているものと推察される.[*](3)海域の栄養塩は基準値を満たしているが,高水温で摂餌圧が非常に大きくなり,ホソメコンブの生長が極端に悪化する.この状況では,現行モデルは現存量を過大に算定しており,改良モデルの方が現地調査結果と整合性が良いことがわかった.[*](4)嵩上げを行った水深DL.-0.5m及び-2m付近は振動流速が大きく,かつ2月の平均水温が約6.5℃と高水温下でもキタムラサキウニの摂餌が抑制され,藻場造成効果の回復が見られた.よって,磯焼けが顕著な海域では,著者らの提案する手法が適していることが示された. |