北海道では冷涼な気候と広大な農地を生かした大規模な酪農が営まれている。酪農業では牛乳を生産する一方、大量の乳牛ふん尿が発生する。乳牛ふん尿の処理方法の一つに嫌気性発酵がある。これは、酸素を遮断した容器の中にふん尿を入れ、一定温度に保持しながら発酵させる方法である。この嫌気性発酵の過程で、メタンが約60%と二酸化炭素が約40%含まれた"バイオガス"が発生する。メタンは天然ガスの主成分であり、すなわちバイオガスは気体燃料として利用することができる。また、発酵後に生じる液体は、においが少ない速効性の肥料として利用されている。[*] バイオガスプラントはヨーロッパでの稼働実績が豊富ではあるが、北海道の冬は積雪寒冷な気象条件であり、冬期の気候が温暖なヨーロッパのバイオガスプラント技術を北海道へ導入する場合、寒冷な気象環境への適応が課題であった。そこで(独)土木研究所寒地土木研究所は、道東の別海町などに実証試験用の大規模バイオガスプラントを建設し、北海道の気象条件に適応した施設構成や運転方法を明らかにした。[*] 地球温暖化の視点で見ると、バイオガスは環境負荷の少ない燃料である。なぜなら、バイオガスの原料である乳牛ふん尿は乳牛が食べた牧草や穀物などの植物が元になっており、その植物は大気中の二酸化炭素を取り込んで光合成を行い成長したものである。つまり、植物由来であるバイオガスを燃焼させたときに発生する二酸化炭素は、植物が取り込んだものであるため大気中の二酸化炭素を増加させないと見なされるからである。[*] このように、乳牛ふん尿は肥料としての価値のほかに、気体燃料であるバイオガスを生産することができる貴重な資源である。近年、エネルギー問題への関心が高まっており、バイオガス利用の今後が注目される。 |