河川に生息する水生生物は、河道内における堰堤により、移動環境に影響を受ける場合があり、その改善策のひとつとして魚道の設置がなされてきた。その魚道が十分に機能しているかについて、これまでさまざまな調査がなされてきたが、魚がどのくらい遡上(降下)すれば魚道の効果が十分であるのか客観的に示すことが困難であるため、客観的な評価手法が確立していない現状がある。本研究では、魚道の担うべき機能として「当該河川に生息する魚類集団を維持するために十分な移動性を確保できること」と想定し、北海道内の農業排水路約6Kmの区間に生息しているエゾイワナ、ハナカジカ、フクドジョウのAFLP解析に基づく個体間遺伝的距離や位置情報を用いて、排水路内に設置された14基の落差工の魚道の機能評価を行った。[*] 調査の結果、各魚種の個体間距離や要素解析の結果から、大部分の区間では個体の交流がなされているが、一部の落差工の上下流において差異が検出されるなど、魚の行き来の容易さに差がある状況が検出された。[*] また、エゾイワナ、ハナカジカ共に支川を起源とすると推定される個体が検出されるなど、本ケースのように狭い範囲に生息する集団に対しても、遺伝情報が魚類の移動環境の評価に適用できる可能性が示唆された。[*] 一方、いずれの魚種においても、遺伝子構造解析の結果得られる要素が分析時期の違いにより異なる結果となった。これは集団内の多型の検出にAFLPの再現性が影響を与えているためと推察され、当該調査地のように遺伝的に近い集団を対象にAFLP手法を適用する場合には、分析・データの比較において配慮が必要と考えられた。 |