少数主桁などの合理化桁に適用される,厚鋼板は低温下での靭性指標が整備されていない.このため,厚鋼板の低温下での適用判定を目的として,シャルピー衝撃試験結果から,簡易的に適用性を評価できる手法の一提案を示した.得られた主な結果は以下の通りである.[*](1) シャルピー衝撃試験に際し,溶接試験片のマクロ試験を行った結果,特定の溶接条件に溶接欠陥が見られた.多層盛溶接において,電流や電圧を過度に抑えた場合,溶接欠陥を誘発する可能性を示唆した.(2) 薄板や大入熱溶接では,溶接部の靭性が母材に比べて著しく劣化するHAZ やBondの脆化が問題となる事例が多い.本実験では最脆化部はDepo に移行する傾向を示した.低入熱溶接と厚鋼板による入熱の冷却速度が影響しているものと考えられた.(3) アンダマッチとした溶材を用いた試験では,低温溶材を用いても遷移温度が高温側を呈した.また,溶接条件ごとにCO2 量を変化させた結果,CO2量が不足すると,気中の窒素(N)の巻き込み量が多くなり,靭性の劣化が進む可能性が示唆された.(4) オーバーマッチした溶材の選定を基本として,CO2 量を意識した溶接施工試験を実施し,低温領域に適した溶材を選定することで,厚鋼板溶接部の脆化を抑制できる可能性を示唆した.(5) WES3003 の算定式を用いて,シャルピー衝撃試験結果から,厚鋼板の低温下での適用可能性について評価する手法を試みた.この式では,遷移温度から使用限界温度が求まる.使用限界温度を最低温度分布と対比することで,架橋地域での適用判定が可能となることを示した.(6) 母材(BM)の使用限界温度は,全ての試験で-40℃よりも低温側となり,北海道全域で適用可能と評価できる.なお,本試験では,板厚80mm 付近では,遷移温度が高温側に推移する傾向が見られた.(7) 溶接金属部(Depo)の使用限界温度は,汎用溶材の場合,-20℃から-30℃と高温側を示した.低温溶材は,汎用溶材に比べ,使用限界温度は低温側となる傾向がある.低温溶材を用いることの有効性を示唆した.本手法は,工場製作段階での確認試験や,維持管理面での補修補強の判定,さらには,実績が少ない鋼板の適用判定など,実用的な手法と成り得る可能性がある. |