寒冷地の経年橋梁において,経年鋼材の鋼種ごとの特性について,供試鋼材の試験結果と北海道の鋼種選定の基となった既往のシャルピー衝撃試験の結果から,相対的な考察を行なった.得られた主な結果は以下の通りである.(1) 撤去桁から採取した供試鋼材D(Flg)材は,Mn とS の含有量,降伏強度が現在の規格を満たさず,経年橋梁には,品質が劣る鋼材が現在も供用されている可能性を示唆した.また,D(Flg)材は採取した供試鋼材で最も古く,シャルピー衝撃特性は,他の供試鋼材よりも劣る結果を示した.なお,D 材建設当時の鋼材規格(JES 金属31011948 年)11)には,降伏強度や衝撃値の規定がなく,当時としては使用性に問題のない鋼材であった.しかし,現在のWES3003の判定基準に準じて評価すると,供用中に脆性破壊の発生する可能性があったことを示した.(2) 供試鋼材C 材に対して三点曲げCTOD 試験を実施した結果,吸収エネルギー遷移温度はΔT を介して限界CTOD 値に対応しており,本試験に関して,経年鋼材においても相関性が高いことを確認した.エネルギー遷移温度vTE は,CTOD 試験における延性破壊-脆性破壊の境界となる温度に対応するため,シャルピー衝撃試験による簡便な破壊靱性の評価は,エネルギー遷移温度が重要な指標といえる.(3) 長い安全実績があるJIS の靭性要求値(vT(0℃)≧27J など)と低温下での使用条件について検証を試みた.板厚30mm 以下の鋼板は、JIS の要求試験温度に対応する使用温度が北海道の最低気温分布の85%を包括する温度域に相当し,低温下においても一定の安全性を有する相対的指標であることを示した.(4) 既往試験結果を含め,経年鋼材の相対的な靭性の傾向を考察し、1960 年代以前に建設された,SS41 材を主要部材に用いている橋梁は,衝撃性能が著しく劣る鋼材が存在する可能性があることを示した.北海道では過酷な気象条件のもと,建設後50 年を越える橋梁が今後急増する中,多くの経年橋梁を効果的に維持管理する手法が望まれている.建設年度と主要部材の材質調査することで,寒冷地における脆性破壊の可能性を知ることができる.本研究では,経年橋梁の脆性的破壊の可能性を探る手法を示した. |