河川流域の産業活動により、工場等における機器等の破損や人為的な誤操作に起因する水質事故が多発している。このため、時には上水道の取水停止を伴うような社会的影響が大きい、水質事故も発生しており、河川管理上重大な問題となっている。水質事故に迅速かつ的確に対応するためには、事故の早期発見が最も重要なことであるが、同時にその汚染物質の影響の範囲を予測することができれば、下流域での被害の未然の防止や、軽減を図ることが可能となる。このため、汚染物質の影響の範囲を予測する手法の確立もまた重要な課題となっている。発生した水質事故の汚染物質が、流下過程でどのように変化するかを知るため、第1報では実際の河川を対象に不活性物質である食塩水をトレーサーとして、その下流域の水質変化を観測し、トレーサーのピーク濃度がほぼ平均流速にしたがって移流し、不等流計算がその流下時間をほぼ近似しうることを確認した。また、第2報ではトレーサーの流下過程での広がりを決定する移流拡散係数が、水質濃度を規定する重要な要因と考え、河川形状や流況の異なる実河川を選定して現地調査を行った結果と、アメリカの河川での解析例をもとに、それが川幅・水深比のような河道水理諸元により決定できることを提案した。本報は、これらの手法を有効に活用するため、1986年に実際に発生した利根川水系の小貝川でのシアンの流出事故の実測記録を用いて検証を行った。その結果、流下時間は不等流計算による再現方法で十分適応が可能であり、また、水質については、事故当時の水質変化の傾向が実測値に近似し、再現性のある結果が得られのでたので、その成果について報告する。 |