オホーツク海沿岸の斜網地帯は、大規模な畑作地帯として拓かれ、今日では豊富な土地資源を背景にヨーロッパをしのぐ経営規模を実現した畑作専業地帯となっている。天水に依存するこの地域のかんがい期間(5月~8月)の平均降水量が全国平均の1/2程度と非常に少なく、このような気象条件が大規模畑作経営の不安定性をもたらす一要因となっていた。国営畑地帯総合土地改良パイロット事業「小清水地区」では、斜網地域の小清水町、清里町、斜里町の畑作農業に対して、生産性の向上と農業経営の安定を図り多様な営農展開を可能とするために畑作かんがいを導入し、かんがい諸施設の整備を推進しながら順次それらの供用が開始されてきているところである。昨今、本地域の基幹作物である甜菜や馬鈴薯、麦類の価格の低迷により農家所得が減少傾向にあることから、従来の土地利用型農業から野菜類を中心とした集約型農業をプラスした複合的な農業経営への転換が必要となってきている。一部の農家では畑地かんがいの導入を契機に甜菜や玉葱等の育苗ハウスを利用した施設農業を集約型農業として取り入れ、マイクロかんがいによる水管理が進められるようになってきている。畑作専業地帯における施設農業の展開に当たり、育苗ハウスの高度利用は農業経営の安定化の面から大いに期待されるところである。しかし、大規模畑作経営を維持しながら施設農業を導入するには栽培管理技術のさることながら、水管理技術や労働力確保の面で解決すべき問題点が多く残されている。畑作専業地帯の本地域に集約型農業である施設農業を定着させるためには、何よりも先ず省力型の水管理技術の確立が不可欠である。このような視点から、「小清水地区」では平成10年度より受益農家の協力を得ながら育苗ハウスの基盤整備「有材心破」とマイクロかんがいに関する栽培試験に精力的に取り組んでいる。本報告は、「小清水地区」で育苗ハウスの高度利用による施設農業を展開するに当たり、「有材心破」の導入による省力的な水管理技術の確立の可能性を検証したものである。 |