北海道における海面養殖業として、古くはノリ、ワカメ、コンブがあるが、コンブの養殖技術は、北海道でほとんど独自に開発され、市場競争に優位な種と地域に限定されて養殖業が定着している。また、ホタテガイの養殖は、サロマ湖と噴火湾で昭和40年代に始まり、一時大量斃死などにより減少した時期もあったが着実に増加し、最近では10万トン以上に達している。その他貝類養殖については、カキ養殖がサロマ湖、厚岸湖を中心に発達して地域特産物として定着している等実績を残してきている。一方、北海道の海面魚類養殖については、昭和57年乙部町でサクラマスの養殖試験が開始され生産実績を上げたのを始まりに、ヒラメ、ギンザケ、ドナルドソン、クロイソ等が養殖されてきた。しかし、魚類養殖の生産高は1993年の約180トン、1.8億円をピークに減少し、1998年には、ヒラメ、クロイソ、ドナルドソンの養殖のみで、生産高も約36トン、55百万円となり、北海道の養殖生産額全体に占める比率も0.2%に留まっている状況にある。北海道は、天然の内湾等静穏な海域が極めて少ないこと、水温の年格差が20℃前後と大きく暖流系の魚種は冬期間、寒流系の魚種は夏期間の養成が困難であること、流氷・結氷など冬期の環境条件が厳しいこと等から一般に魚類の海面養殖には不利な環境を有していることもあり、これまで実績が挙がらなかった面がある。しかしながら、魚類の種苗放流技術の開発等に伴い魚類養殖のための種苗生産、養殖資機材、配合餌料、監視システム、魚病対策等の関連技術は着実に発展してきており、また、従来の漁場整備のみならず漁港等でも水産協調型の機能の強化が積極的に検討されるようになり港の機能を兼ね備えた静穏域造成が行われている等魚類養殖を取り巻く環境は徐々に改善されつつある。このような状況の中で、つくり育てる漁業の推進による漁業の持続的発展の一つの戦略として、漁港等を利用した魚類養殖特に冷水性魚種であるクロソイやマツカワの養殖を試験的段階ではあるが取り組んできている漁協も現れてきている。本報告は、特に2つの漁協でのクロソイ・マツカワ養殖の試みを中心に報告するものである。 |