近年、沿岸域の利用の要請が高まる中で、港湾整備にあたっても、安全で快適な水辺空間に対する社会的要請に対応して、親水性に富んだ豊かな港湾空間の形成が求められている。港湾に於いては、マリン・タウン・プロジェクト計画にみられるように、港内の静穏域を多目的に有効利用し、より快適な水辺空間を創出・維持するためには、波浪の制御とともに良好な水質を保つことが不可欠となっている。また、昨今の漁業を取り巻く情勢は、増・養殖を中心とした管理型の漁業の積極的な推進によるより安定な経営を求めており、漁港においては、静穏で水質の保全が可能な出荷調整用の蓄養施設水面の整備の要請が高まっている。湾や入り江、港湾・漁港内の水質の浄化を目的とした海水交換手法については様々なアイデアが提案されているが、手法を実際の海域に適用するための具体的な方法論にまで踏み込んで検討した例はない。また、北海道においても、港内の海水交換を目的として堤体に孔の開いた特殊な防波堤(有孔堤)が沓形、瀬棚、紋別港などで建設されているが、その構造については試行錯誤の部分が多く、また、海水交換機能についての定量的な評価ができる段階に至っていない。本研究は、漁港・港湾区域における水質保全対策として、波浪エネルギーを利用して海水交換の可能な防波堤を開発するとともに、そうした施設の導入を計画する際に必要な、施設の構造、規模、配置などの設計指針を確立しようとするものである。本文では、防波堤からの海水交換の基本的な考え方を示すとともに、海水交換型防波堤として有孔堤を取り上げ、その水理特性についての理論解析法と実験および計算結果の一部を紹介する。 |