土木構造物は、その公共性ゆえに誰もが目にする機会が多いこと、他の建築物と比べて規模が大きいこと、さらに、一度建設されれば何十年にもわたって存在することなどから、その建設によって周辺の景観に与えるインパクトは計り知れないものがある。このような景観的な影響力の大きさと、一方で、人々の生活の価値観が、物質的な豊かさから心の豊かさを求める傾向へと変化していることから、昨今、土木構造物に対しても、単に丈夫で長持ちという本来機能に加え、美的要素も求められる傾向となってきている。例えば、平成元年に完成した横浜ベイブリッジは、単に目的地への交通路として利用されるばかりでなく、周辺の景色と調和する美しさを有することから鑑賞にも堪え、また、人々の遊びや憩いの空間ともなっている。函館港湾建設事務所では、昭和58年、函館港水際線に沿う延長約2000mの函館港臨港道路橋梁建設工事に着手し、現在も継続して工事を行っている。本橋梁が計画された昭和50年代においては、今日と違って、それほど土木構造物に美的要素を求める声は多くなかったため、本橋梁は、景観設計など行われぬまま現在まで設計・施工が行われてきた。しかし、着工から約10年、港湾を取り巻く状況も変化し、港湾が人々の生活環項に価値あるウォーターフロントとして期待され、そこにアメニティーが求められるようになってきたため、本橋梁においても可能な範囲内で景観設計を行うことになった。本論又は、現在進行中である函館港臨港道路橋梁の景観設計のうち、橋のデザインの方針を決める過程を中心に報告するものである。 |