本研究の最終目標は、港湾・漁港区域における水質保全対策として、海水交換の可能な防波堤を開発し、そうした施設の導入を計画する際に必要な施設の構造、規模、配置などの設計指針を確立することにある。前報では、防波堤からの海水交換の基本的な考え方を示すとともに、波浪エネルギーを利用して海水交換を行う方法として有孔防波堤を取り上げ、理論解析の方法と解析結果の例を示した。波浪エネルギーは潮位差が少なく、潮汐あるいは潮流エネルギーが利用できない海域における海水交換用エネルギー源として期待されるものである。有孔堤は波のエネルギー、すなわち、波の上下動によって生じる防波堤両側の動水勾配によって堤内外の海水交流を行おうとするものである。この形式は通水孔が水中にあるため港内への伝達波を抑えられることや、構造が比較的簡単であることから、通常の混成堤の断面形状を変えずに採用できる利点がある。一方こうした海水交換手法では防波堤を通じて出入りする海水は防波堤近傍に限られるため、希釈による海水交換の効果は防波堤周辺に限られ、閉鎖水域全体には及びにくいという問題が残る。したがって、有孔堤により効果的な海水交換を行うためにはそうした問題を解決しておく必要がある。そこで本報では、こうした課題に答えるために、有孔堤の管内流速の基本特性を鉛直2次元の数値解析により検討し、あわせて現地観測の結果と比載する。次に、閉鎖水域全体に新鮮な外港水を導入するためには防波堤からの流れの恒流成分を増大させることが効果的であるとの考えに立ち、管内の流れを一方向に卓越させる手段として有孔堤を消波ブロックで被覆する方法を明らかにする。最後に、小規模のモデル港を設定し、防波堤からの恒流による海水交換の平面的な効果を数値シミュレーションにより示す。 |