高品質な食品を求める消費動向は、グルメ志向や自然食品、健康食品への根強い志向をもたらした。特に、中高級魚介類に対する異常と思えるほどの需要が形成された結果、中高級魚介類を中心とする輸入が増加するとともに、栽培漁業の展開が促され、また、養殖生産量も着実に増加してきている。一万、順調に推移してきた魚価は、動物牲蛋白質の摂取を巡る畜産物や乳製品との相対的な比較から伸び悩みが見られる。このような社会情勢下において、少しでも魚価上昇を願う漁業者や流通業者による付加価値向上の取組みと、消費者の高鮮度志向、グルメ志向に対応した水産物流通の急激な変革いわゆる「活魚流通」が全国的に進展するとともに、天然魚介類や養殖魚介類を対象にした活魚流通に対応した漁港内蓄養が行われるようになった。昭和63年の漁港法の一部改正により、漁港内に蓄養施設の整備が可能となった。北海道においても、第8次漁港整備長期計画(昭和63~平成5年度)に基づいた蓄養施設の整備は、抜海漁港(稚内市)、雄冬漁港(増毛町)、追直漁港(室蘭市)の3漁港において事業実施されているが、3漁港以外の多くの漁港や港湾においても、多種多様な魚介類を対象にした蓄養事例が見られる。漁港内蓄養は、漁業者や流通業者の経験に基づいて、試行錯誤的に実施されていることが多いため、系統だった蓄養施設整備や施設管理等の基本方策が確立しているとは言い難い。しかしながら、現在策定中の策9次漁港整備長期計画(平成6~11年度)では、上記の3漁港以外の漁港からも、蓄養施設整備の事業化要望が出されていることもあり、蓄養施設整備に当たっての整備目標(蓄養施設の計画や設計に際して準拠すべき指針、例えば、蓄養に応じた波浪静穏度、海水交換などの流動・水質環境等の考え方)を早急に策定する必要が出てきている。そのため、水産土木研究室では、漁港内蓄養施設整備に関する研究の一環として、①平成2年度より蓄養水面を整備開始した抜海漁港において、平成元年度より蓄養水面施設周辺の(水埋、水質、生物、底質)環境調査を実施している。また、平成4年度から、②蓄養施設整備に対する蓄養生物の立場からの留意事項の整理、③漁港内における流動環境と水質環境の変動に関する数値解析プログラムの開発と、モデル漁港を対象にした数値シミュレーション、を実施している。そこで本年度より調査開始した②、③の内、本報においては、蓄養施設整備に対する蓄養生物の立場からの留意事項について報告し、③については次報で報告する。なお、抜海漁港の蓄養水面周辺の環境変動については、現在ブロック傾斜堤が概成した段階であるので、スリット堤が完成し蓄養開始された後、改めて報告する予定である。 |