洪水時等に河道内に存在する樹木が倒伏し流木となると、ある箇所に詰まって氾濫を引き起こしたり、橋脚等の河川構造物にひっかかり大きな流水抵抗がかかることによる構造物の破壊が生じる場合がある。このため、河道内樹木の伐採および植栽計画の立案を行ううえで、河道内の樹木が洪水時に倒伏あるいは流木化しないよう配慮する必要がある。苅住樹木の支持力と根鉢の大きさは密接な関係があり根鉢が大きいほど支持力が大きく、根鉢の直径および深さは根系の分布特性によって異なるが樹木の胸高直径と関係が認められる。このことから、樹木の支持力は樹木の胸高直径からある程度推定することが可能として、建設省土木研究所では種々の樹木の引き倒し試験を実施し、胸高直径と樹木の倒伏限界モーメントとの関係を調べている。その結果、河道内の樹木の伐採・植樹のためのガイドライン(案)は、根系の生育状況への影響も加わって樹種や土質による大きな違いは無いが、河道内では樹木の生育条件による差が大きく対象とする箇所に生育する樹木を用いて引き倒し試験を行い耐力を推定することが望ましいとしている。このことから計画立案に際して、様々な河川で河道内樹木の倒伏を判断するための基準となる樹木の倒伏限界値が、引き倒し試験等により求められている。著者らは、1992年8月鵡川洪水後の倒伏樹木調査を実施し、樹木の倒伏角度から洪水時の流速を推定した。その際使用した樹木のヤング率は後日現地で実施した引き倒し試験の結果を用いているが、算定された流速が想定される流速よりも大きな値を示したものが多く存在した。この原因として、樹木へのごみ等の付着、樹木の流水中での振動等による根のゆるみおよび降雨や流水による土中水分の増加に伴う根の支持力低下が考えられる。本研究は、一般に平常時に行われている樹木の引き倒し試験結果による倒伏限界値が実際の洪水時にどのように変化するかを把握する目的で、倒伏限界値に影響を及ぼす要因について検討を行った結果を報告するものである。 |