一般に海岸部では、塩分を含んだ強い風が吹くため、樹木の生育にとって極めて厳しい条件となっている。これは、海岸部特有の強風によって地上部の葉から水分が奪われるにも関わらず、植栽当初の根の傷みと塩分によって、根から十分な水分の吸収ができないためである。この結果、樹木は、脱水症状を起こし枯死することが多い。釧路地域の海岸部では、さらに、寒冷と少雪という条件が加わって、温暖な地域の海岸部よりさらに樹木の植栽を難しいものにしている。つまり、寒冷であるため傷ついた根の回復や成長が遅く、また、樹木を寒風から保護する積雪が少ないため、冬季に塩分を含んだ寒風が直接樹木に吹き付けるためである。このため、成木を植栽する一般の導入方法では、街路樹や緑地の造成がきわめて困難であり、現在、海岸部一帯は、限られた樹木しか育たず、緑に関して量および質とも貧弱な環境となっている。ところで、釧路地域は海岸部も含めて、北海道の他の地域と同様、明治の開拓以前は鬱蒼とした自然林に覆われていたことが知られている。その後の開拓によって、自然林は短期的に失われたが、気候や土壌が大きく変化したわけではなく、自然林の再生が不可能ではないと考えられる。しかし、一般に、環境の厳しいところでは、一度森林が破壊されるとその再生はきわめて困難な場合が多く、温暖な地域や内陸部と同じ方法では、樹林の再生は不可能でると考えられる。そこで、釧路地域の丘陵から海岸にかけて元々自生していたと考えられる在来種から複数の樹種を使い、塩分を含んだ強い風が吹く条件下でも植栽できる技術を開発するための試験を開始した。これらの公共空間の緑化には、単に緑を増やすことにとどまらず、地球環境に関連して、かつて失った自然を再生するという視点も重要である。それには、在来種と呼ばれる元々その地域に自生した樹種を用い、かつ、それらの中で出来るだけ多くの種類を導入することが望ましい。これによって、気象害や病害虫に対して安定した樹林が維持できるだけでなく、野生生物の生息にとっても、餌となる木の実の種類や実る時期がずれるなど、生息環境の改善がなされることも考えられる。 |