苫小牧港東港区は、開放性砂浜海域に建設された大規模掘込港湾であり、昭和51年の着工以来、約20年という短期間での港湾開発と、それに伴う自然地形及び沿岸域環境の改変が行われた。東港区の今後の展開を考えると、想定最終港形においては、外郭施設の大幅な延伸と、両水路の堀込促進により、港全体の閉塞性が顕著となる。さらに背後の基盤産業整備における、核融合施設EATER導入に代表される温排水の激増、千歳川放水路の洪水時安平川放流による河川水流入・汚濁拡散の影響など、これまでの東港海域では、経験し得なかった大規模な環境負荷も予想されることから、港形の変化及び負荷量の変動が、沿岸域環境におよぼす影響を、定量的に評価・予測する事が必要不可欠である。一方1990年代に入り、「アジェンダ21」の採択、「生物の多様性に関する条約」、及び「国連海洋法条約」の発効、さらに新たな環境基本計画の決定などにより、生物の多様性・生態系にも配慮した沿岸域・海洋域の環境保全がこれまでにも増して求められている。こうした社会情勢を受け、運輸省港湾局では、重要港湾以上に新たに「港湾環境計画」の策定を義務づけると共に、技術開発5ヶ年計画における重点技術開発テーマのひとつに「自然環境と共生した港湾(エコポート)の形成」を挙げ、「生態系を考慮した環境予測・評価技術の開発」等の具体的な技術課題を盛っている。現在こうした「エコポート」に関する取り組みの中で、生態系モデルによる環境評価手法については、富栄養化現象・貧酸素水塊等の問題を対象とした、閉鎖性内湾域における検討事例がほとんどであり、開放性海域において、波浪・流況等の物理環境の変化に対する生物応答を、数値モデルにより解析した事例は非常に少ない。そこで、筆者らは、冒頭に述べた東港区の将来的な港形・環境負荷の変動に備え、生態系についての環境評価技術開発の第一歩として、当海域を代表する有用種である、ウバガイを対象とした資源変動モデルを、H7年度における現地観測と、数値計算により構築し、港湾建設に伴う物理環境の変化が生息環境に及ぼす影響を検討した。 |