洪水時の河床状態の把握は河川工事の根底にふれる重要なテーマである。にもかかわらず、これまで十分なデータが得られなかったのは洪水流の特殊性、なかでもその現象の規模の大きさとそれに伴うもろもろの観測上の危険性・困難性に基づくものであったといえるだろう。近年、海洋調査における海底地形の詳細・迅速な観測技術は進歩している。けれどもそれらも、極力凪いだ条件下の実施が求められるものである。また船舶上に多くの機器を搭載することが出来る。その方法をそのまま河川の洪水時に持ち込むことは出来ない。「洪水時」の特徴は、第一にそれが荒天時に発生することが多いこと、すなわち豪雨や強風を伴い易く、作業に困難性が多い。また氾濫が生ずれば、地上活動は著しく阻害され、適確な現地移動が難しくなる場合すら起こる。また洪水の発生には突発性の要素がある上に、観測は水位立ち上りからの洪水全期を行うことに意義があり、対応独特な配意が欠かせないことである。第二に洪水流は流速が大きく、直接的な観測機器は受けつけないばかりか、恐らくそれが最大の悪条件の一つになると思われるものに、水面および水中の夥しい"流化ゴミ"がある。それは観測機器への障害になり、また船や、仮に無人ボートでも、その操船を危うくする。流下ごみは細かい草木のみでなく、巨大な流木もあり融雪時では大小無数の流氷もある。これらの事情により、一方においても必要なことは高度な機能を持つ諸観測機器の開発、及びそれを運営する機構の研究であろう。しかし他方において、最も簡単かつ初歩的な機器を用い、最小の人員で行う、すなわち今直ちに着手できる事柄から実行に移すことが肝要であろう。その意味で当建設部では、自由学園最高学部研究員・木下良作博士とその研究グループが進めつつある簡便な方法を採用し、天塩川下流部において先ず融雪出水を対象に昭和61年度より観測を開始した。本報告は第2年目にあたる62年度の要旨をなすものである。 |