宗谷管内における営農形態のほとんどは酪農で、作物は全耕地面積の約95%が牧草である。入植当時は、十勝・網走地方と同様、馬鈴薯・雑穀を中心とする一般畑作物が栽培され、畑・酪混合の農業地帯であった。それが昭和28年から31年と続いた冷害と澱粉価格の暴落のため、畑作経営をあきらめ牧草を利用する酪農経営が主体となってきた。近年は、その経営も大型化され、近代化に向けて発展しつつある。しかし、牧草の生育が可能な温度条件下でも、降雨の量、降り方及び農地の土壌条件によっては、牧草の生産のための生育有効水は必ずしも安定的なものと言えない。牧草が基幹飼料である酪農経営は、良質な牧草が安定供給されることが最も重要なことの1つである。そこで過去の降雨記録をみると、昭和40年代は比較的コンスタントに平均以上の降雨量が得られていたが、昭和50年以後は降雨量が際立って少なく、そのため生育被害を受けており、昭和54年以後はそれが隔年で生じている状況である。天北地域の概要として2、3の特徴を述べると、この地域は北緯45°に位置し、5月~8月の全太陽放射エネルギーが高く、牧草生産の基本原理はこの短期間の高いエネルギーの有効利用にあると考えられる。それには現在この地域に導入されている牧草も、他の作物と同様に人間の目的に合うように選抜されてきた寄形植物であり、生育のための養分・水分の要求量が他の作物と同様に高いことを認識する必要がある。例えば、この地域に広く分布する重粘土は養分供給能及び保水能が共に劣悪なため、次のように養分と水分の供給で収量の決まる場合が多い。収量=f1(養分)×f2(水分)従って、土壌が持つ養水分供給量を把握して、目標収量に応じて不足する分を補ってやらなければならない。収量=f1(土壌天然養分供給量+施肥)×f2(土壌保水量+降雨+かんがい水)以上のことから天北地域での畑地かんがいの主たる目的は、家畜ふん尿の圃場への還元(施肥)と不足水分の補給(かんがい水)にあると言える。また、次章以降では牧草の生育条件及び天北地域の土壌特性、気象特性等を検討し、牧草への湿潤かんがいの必要性について報告するものである。 |