人間は農耕を覚えることで、安定した生活基盤を得ることができるようになった。農耕には水が不可欠である。エジプト・メソポタミア・インダス、黄河の4大文明は、大河川を中心として発達したが、これらは、水を治めるために強大な権力が求められ、水の秩序を維持することで、国の秩序を維持したものと考えられよう。古来より水田耕作が生活基盤であったわが国でも、低平な沖積平野を中心とする社会が形成されてきた。したがって、河川と人間との関わり合いは極めて深く、かつ複雑であって、人間社会は河川にその社会生活を規制されながらも、徐々に河川に手を加え、今日の姿を築き上げてきた。明治29年に河川法が成立して以来、我々の先達は、積極的に欧米の技術を取り入れながら、これを日本の河川の条件に合うようにアレンジして適用し、多くの地域を水害から守り、水の安定供給に貢献してきた。しかし、近年の社会経済の発展に伴う土地利用形態の急激な変貌、特に、河川の上流部地域における林道、高速道路などの開発、中流部地域における土地利用の高度化のため、流域での保水能力は著しく低下し、河道の整備等とも相俟って、洪水流量の増加と流下時間の短縮という現象となって現れてきている。また、他方では、下流部の都市の周辺地域の開発、特に、低平地域の開発がいわば、無秩序に行なわれ、そのため水害の危険地域が拡大しており、河川管理施設の改善強化だけで洪水に対処することには、もはや限界がきていると考えられる。また、都市に人口が集中し、都市用水、工業用水が増加する中で、水資源開発のためのダム建設は水源地対策の難航のために遅れ、渇水の慢性化をひきおこしている。一方で、河川流量の減少、汚水の増加は、河川の水質に大きな影響を与えている。このように、治水面、利水面、また環境面において、現在生じている種々の問題は、河川のみの問題としては対応がむずかしくなっている。我々、河川技術者が、河川で生じている問題を解決していくためには、今1度、流域という面に目を向け、流域と河川との間の関係を考える中で、今後の河川のあり方を考え直してみる段階にきているといえる。本課題は、以上のような認識のもとに、河川の問題を把握し、これまでの流域と河川との関わりの歴史という観点から整理し、今後の対応策とこれを実施する際の問題を検討していくものである。 |