北海道開発局における特殊消波岸壁の研究は、昭和44年度にスリット型ケーソン構造物に異形ブロックを中詰したものが最初である。この種の岸壁は昭和45年度に追直漁港、昭和49年度に十勝港の岸壁にそれぞれ施工されている。スリット型ケーソンはスリット部で断面の急縮急拡により流れを発生させて波を巻き込ませ、エネルギー分散を行うために消波効果を発揮するものであるが、さらに遊水部における波の分散と反射を複合させて、侵入波とのタイミングに位相差を誘発させることにより襲来波の総エネルギーを反射波で制御させることがその基本原理となっている。しかしながら固定された遊水部で、あらゆる周期の侵入波をすべて制御することはとうてい不可能なことである。本報告で述べるスリット型ケーソン消波岸壁はケーソン内の遊水部でいかに侵入波のエネルギーを分散、消滅させるかという点に重点をおいて工夫され開発されたものである。即ち前面スリット部の空隙率を大きくとって、侵入波を出来る限り内部にとり入れ、遊水部内に設けた2段の特殊突起版により、逆うず流を発生させると同時に、空気を巻込ませ、また後壁よりの反射波も発生させて、それら複合作用で波のエネルギーを制御するものである。当該スリット型ケーソン構造物の開発についての研究は、従来の消波岸壁の研究成果をふまえて昭和50年より土木試験所港湾研究室で始められ、昭和54年にその改良型として発表されたものである。今日、日本各港に主構造物として施工されているスリット型ケーソン構造物はほとんどが従来の混成堤ケーソン本体の前部の隔室を中空にしたもので、前壁に有孔部を設けて波をとり入れ、前室の遊水部で波を消散させる構造となっている。即ち従来消波工として、防波堤や岸壁の前面に施工される異形ブロックを前室で代用させた形のものである。釧路港知人地区岸壁で実施されるものはケーソン全体が特殊構造になっており中詰部が遊水部となって、内部のスペースを最大限有効に利用して波を消散させる構造となっている。従って軽量で安定性にすぐれ、かつ消波機能も広範囲の侵入波に対し発揮できる特徴を持ったものである。 |