我が国においては、昭和39年に発生した新潟地震の際の建築物の倒壊状況から単一粒径の緩く堆積した砂地盤の液状化現象が着目されるようになった。その後、昭和58年に発生した日本海中部地震を契機として、地震により励起される地盤の液状化による被害に対する社会的認識が高まるようになった。港湾域においても、「液状化対策技術マニュアル」が発刊され、既存の港湾施設も含めた液状化対策が検討、実施されるようになった。北海道の港湾においても、重要度の高い係留施設背後の地盤に対する液状化対策が行われるようになったが、そのような中で平成5~6年にかけ、釧路沖地震、北海道南西沖地震、北海道東方沖地震という大規模地震が本道を襲った。この中では特に釧路沖地震が港湾域内の地盤の液状化を大規模に発生させ、係留施設の前出しなどの被害をもたらした。一部の係留施設背後の地盤に対する液状化対策が既に実施されていたことから、発生後の調査により背後地盤の液状化の有無が本体施設の被害の大きさに関連しているという貴重な知見が得られた。すなわち、同水深の係留施設を比較してみると、背後地盤の液状化対策が実施されていた施設の変形量は圧倒的に小さかったことが判明した。また、振動台を使った模型実験の結果から、重力式構造物の背後地盤が液状化しない場合には、堤体慣性力と水平土圧は互いに逆位相で作用していることが示唆された。これまでの一般的な設計法では、こうした慣性力と水平土圧の位相差は考慮されておらず、両者は同一位相で堤体に作用すると仮定されている。また、液状化発生の有無を評価することなく、計算地震時水平土圧が作用するという考えの基に滑動および転倒安全率が求められる。性力と水平土圧との間に位相差があるのであれば、背後地盤に液状化が発生しない重力式構造物の滑動に対する所要質量は現行設計法で求めるよりも低減することが可能と考えられる。また、液状化の有無による作用土圧の相違を設計手法の中に組み入れることは、これまで得られてきた現象に関する知見を取り込んだより現象再現性の高い設計法を確立していくことにつながる。しかしながら、現実の重力式構造物でどのように外力が作用しているかを確認することは困難であり、北海道開発局では平成11~12年度にかけて地震時の挙動を観測するための各種計測機器を設置した実物大岸壁を建設して観測を開始した。 |