傾斜堤は、割石やコンクリートブロックを海中に投入してつくる最も基本的な防波堤の構造様式で欧米の防波堤の多くはこの型式である。しかし、我国では大きな石に恵まれず、傾斜堤はせいぜい水深3m程度までしか施工されなかった。ところが、消波ブロックの出現により、我国ではこれを用いた傾斜堤が各方面で、すなわち防波堤はもとより離岸堤や突堤、導流堤、水産増養殖施設などに採用されるようになった。消波ブロックを用いた傾斜堤は、透過性の構造物であるため流れや波を通す。この性質が消波ブロック傾斜堤の特徴で、ときには長所となり短所ともなる。防波の面からみれば、港内伝達波を小さくするために、堤体内部を小さなブロックとしたり、堤体中央に不透過壁を設置したりする。さらに、流れを確保して波浪の透過を阻止するための多孔壁や遊水部の採用を検討されている。消波ブロック傾斜堤は構造が簡単であるにもかかわらず水理機構が複雑なため、水理現象はもとより設計の面でも未解明の部分が多く、最も重要な伝達波特性についてみても、沼田・岩崎、服部・堺、三浦・遠藤、鴻上・時川らの実験的研究でその一端が明らかになっているにすぎない。土木試験所港湾研究室では、消波ブロック傾斜堤の水理機構解明を最重要課題として、昭和52年以来、伝達波、反射波、堤体内の水粒子運動、洗掘現象、堤体沈下等について取組んできた。消波ブロック傾斜堤は波浪制御の面から極めて応用範囲の広い構造型式であるが、5ヶ年にわたる実験的研究の結果、波浪制御技術発展に有力な武器となる伝達波特性を解明したのでここに発表するものである。あわせて、消波ブロック傾斜堤の設計にあたり忘れてはならない堤体沈下防止についても言及した。 |