わが国初の国営事業による大規模な、家畜フン尿を用いた肥培かんがい事業として、十勝管内鹿追地区を対象に事業計画が検討されたのは昭和40年代初めである。事業の目的は、地域農業の中心的役割を期待されていた酪農経営にとって多頭化飼育の隘路となるフン尿の処理を省力化し、合わせてフン尿肥効分を有効に活用しようとするものであり、事業化するために昭和42~45年度にかけて鹿追地区内のモデル農家における各種調査が行なわれ、肥培かんがいの技術的方法、稀釈効果、省力効果、牧草増収効果等の把握を基に本事業の計画策定がなされた。最終的な肥培かんがいの方法は、畑地6,654haを対象とし、地区最上流部から取水した31.6l/sの用水をパイプラインによって各農家の畜舎まで導き、畜舎近傍に造られた調整槽に蒲いて家畜フン尿と混ぜ合せて7倍稀釈のスラリーを作成する。このスラリーを遠心ポンプで加圧し、各圃場に埋設されたパイプライン(φ100~75mm)を経て、約2.5haに 1ヶ所の割合で設けられた立上り管により地上部に出し、地上移動ホース(φ65mm、Lmax=100m、散布の都度立上り管に接続)及びレインガンにより散布(末端圧4kg/cm2、散布量508l/s、散布半径30m)するというシステムである。昭和49年度から圃場施設の施工が始められ、56年度境在、既に80戸(73施設)の受益農家において各戸の実情に合わせた利用を行なっている。今回、パイロット事業である鹿追地区として、その利用内容を調査することによって実際どのような効果が上っているのか、又どのような問題点が残されているのか等を見直すことにより、今後の肥培かんがい事業をより発展させるための参考データを作ることとした。 |