防波堤や消波ブロックなどの海洋コンクリート構造物は、波浪に伴う礫等による摩耗や損傷に加えて、海水中に含まれる各種イオンによる浸食作用を受けており、曝される環境条件は過酷である。特に、北海道のような寒冷地では、海水による浸食作用に加え、凍結融解による凍害劣化を複合的に受ける環境下にあることから、コンクリートの表面の浸食(表面はく離)および組織の多孔化・脆弱化の進行が懸念される。21世紀は、少子高齢化に伴う労働力の低下に加え、逼迫する財政に考慮したコスト縮減の徹底が予想される今後の社会情勢の中で既設構造物の良好な状態を保っていくため、これまでストックされてきた膨大な既設構造物を使いこなしていく姿勢が強く求められる。そのためには、劣化がどのように進行するのかを把握するとともに、将来的な劣化の進行を予測し、未然に劣化抑制対策を講ずることが望まれる。筆者らは前報で、表面はく離の進行メカニズムを把握する目的で、建設から10数年経過した防波堤からコアを採取して気泡間隔係数とEPMA(=Electron Probe MicroAnalyzer)分析を行った。分析の結果、表面はく離が比較的進行しているコンクリートは酸化カルシウム(CaO)および塩化物イオン(Cl)の濃度が共に低く、海水の浸透・凍結が促進されやすい状況にある知見を得た。しかし、コンクリートの配合すなわち打設当初の品質に関する記録が不明であったことに加え、海水の影響がどの深さまで及んでいるのか、また、海水によって生成された結晶塩が劣化に及ぼす影響までは詳細に把握することができず、満足な検討を一部行えなかった課題が残った。これらの経緯から、本報では、建設から10数年経過した防波堤の上部工天端からコアを採取し、コンクリートの配合推定および走査電子顕微鏡(SEM=Scanning Electron Microscope)による分析を行い、表面はく離に及ぼすコンクリートの配合条件ならびに海水による化学的な劣化挙動の影響に関する検討考察を行った。 |