山地流域における土砂動態の把握は総合的土砂管理を進める上で極めて重要といえる。一般に、土砂は山腹斜面、渓岸、河岸から河川に入り、河道を移動して海に到達する。しかし、豪雨時の斜面崩壊によって河道に流入した土砂は、その後の降雨による出水によって粒径や勾配に応じて堆積、再移動を繰り返す。このような流域全体の土砂移動を把握するためには、平常時及び大規模な出水時に流域全体を調査する必要があるが、特に出水時には表面採水で把握可能な浮遊土砂を除き、流域全体にわたる土砂移動量の把握は極めて困難といえる。現在、降雨の斜面流出を考慮した流域土砂動態推定の試みもなされており、河川管理を考える上で、今後、降雨の時間・空間スケール、土砂の粒径分布、ダム構造物などを考慮した土砂動態予測モデルの開発が望まれる。豪雨により流域で発生した崩壊地と崩壊土砂量及び河道での堆積量については、出水時の流砂観測により流域土砂動態を把握する試みや小渓流に着目して経年的に土砂動態を調査した報告もあるが、本イベントのように大量に土砂が供給された後の流域レベルでの土砂動態の把握事例は極めて少ない。2003年8月、一級河川沙流川流域周辺では台風10号の影響により活発化した前線により豪雨がもたらされた結果、多くの橋梁や農地が被災し、人命が失われた。沙流川河口から上流約20kmに位置する二風谷(にぶたに)ダム貯水池では、5万m3に及ぶ流木が堆積し、貯水池内には平年値の2年分に相当する土砂が堆積した。筆者らは二風谷ダム貯水池直上流で合流する支川額平(ぬかびら)川(流域面積384km2)で崩壊地調査を行ったところ、新規崩壊地が4,000箇所を超えたことが判明した。こうした崩壊地からは河道への大量の土砂や流木の供給がなされたと考えられるため、まず、額平川流域全体でどれほどの崩壊土砂や流木発生があったかを把握したうえで、全体の土砂・流木収支を推定した。さらに、現地調査結果を活用し、額平川流域における出水直後の支川別の土砂堆積・浸食量についても現地調査結果から推定を行い、河道に供給された崩壊土砂・流木の動態を推定した。 |