日本では1990年代に生物多様性条約へ加盟して以来、国と地方自治体はそれぞれの立場において行政目標に"環境への配慮"や"生物多様性の保全"を掲げる場面が増加している。一方、国民においても"環境"への意識は年々高まり、行政は公共事業の実施に際して、この世論を無視することができない状況にある。このような環境保全に向けた施策や意識が公共工事へ反映する機会の増加に合わせて、環境に配慮した新たな施工方法の開発と導入が強く求められるようになった。この理由により、公共緑化事業においても、新たな手法の開発と導入が必要な時期に直面しているといえる。つまり、緑化を生物多様性の保全の視点から捉えると、従来の主要緑化素材である外来草本類の使用は生態系や自然景観の撹乱を促す結果につながることから、今後は外来植物の使用場面が限定されることは必至といえる。従って、国公立の自然公園などを中心として、国内に自生する植物が緑化素材として求められる施工現場の増加を考えることができる。この要請に応えるためには、自生植物の中から緑化素材として適したものを明らかにすると供に、この使用方法を開発する必要がある。北海道では、本道に自生するササが次の理由から優れた緑化素材として注目することができる。先ず、ササは道内に広く自生分布することから道内で広範に使用することができる。また、公共事業の施工地をササ植生へ復元することが自然植生への復元にもつながる場面が多い。ササの地下茎は土壌を緊縛する能力に優れており、法面緑化の主目的である表土の流亡の抑制を機能的に実現することも可能である。加えて、ササは永続的に成長することから活着後の管理を省力化できる可能性がある。このような法面緑化の機能的目的に加えて、草丈が法面の人工構造物(法枠など)を被覆するにも十分であることから、本道の自然を背景とした郊外の景観の形成には外来草本類よりも優れている。このようにササを緑化に利用することは、本道の環境保全に大きく寄与するものであるが、実用に際しては苗の供給体制において、次の点が問題となっている。先ず、道内に広い分布域をもつクマイザサでは、苗の生産技術が確立していないことから流通しておらず、市場で取り引きされている道内の自生種はミヤコザサのみである。自生種以外では園芸品種が流通しているが、これら園芸品種は自然復元の用途に向かない。またミヤコザサの道内分布域は十勝地方を中心とする寡雪地帯であり、使用範囲も限られる。このことから、クマイザサの苗を緑化に適した体裁で生産する技術を開発することが、本道の環境を配慮した公共緑化の実現への課題といえる。そこで本報では、クマイザサを対象とした苗生産技術開発の経過と法面に植栽した苗の成育経過について報告する。 |