国営事業としての農用地造成において、土壌改良工は、土壌の化学性を改良する唯一の工程である。この土壌改良工は、土壌酸性矯正のための石灰資材と、土壌の燐酸固定力を抑制するための燐酸資材の施用工程よりなる。農用地造成事業は、農地開発事業と草地開発事業に大別されるが、土壌改良工の使用資材や施工法は、両事業で異なる。そこで、まず、現行の土壌改良工を、両事業について比較すると、次のようである。1)土壌改良資材施用量石灰資材については、両事業ともに、同一の投入量算定方法によっている。土壌改良深15cmの土壌に対し、容量重を考慮して、緩衝曲線法により、Ph65(農地開発事業では、作物によりPh60の場合もある)に中和する要する量である。燐酸資材については、両事業で、投入量の算定方法が異なる。農地開発事業では、土壌改良深15cmの土壌に対し、容積重を考慮して、燐酸吸収係数の1%に相当する量である。一方、草地開発事業での燐酸投入量は、「土壌中の有効燐酸が、牧草の定着の制限因子とならない量」とされている。その算定において、土壌の容積重は考慮されず、燐酸吸収係数の5%に、土壌中の有効態燐酸量から得られる値を加え、さらに150を加えた値で、200を下回らない量(kg/ha)である。以前の算定方法では目標生草収量より、計算された。2)土壌改良資材の施用法および使用資材石灰資材については、両事業ともに、炭酸カルシウム(炭カル)が用いられ、15cm(土壌改良深)までの土壌と混和されるが、燐酸資材については、事業により異なる。農地開発事業では、石灰資材と同様に、15cmまでの土壌と混和されるが、草地開発事業では、表層にごく浅く混和されるか、表面散布される。このため、農地開発事業での土壌改良資材(土改材)散布において、枸溶性燐酸を含み、炭カルとの化学反応がおきにくい熔成燐肥(熔燐)を燐酸資材として用い、土改材散布機に炭カルと一緒に積み込まれ、同時に散布される。重焼燐は、水溶性燐酸が多く、炭カルと混合した場合、化学反応をおこし、石灰分や燐酸分の効用が減少するおそれがあり、さらに、粒径が大きいため、均等散布が難しい。このため、農用地開発事業で重焼燐を用いようとすると、炭カルとは別途散布になり、一工程増加させねばならない。そのため、農地開発事業では、重焼燐は、用いられていない。草地開発事業の燐酸資材は、石灰資材と混和深が異なるため、炭カルと同時散布はできない。このため、炭カルとの化学反応などについて考慮する必要がないから、燐酸資材としては、熔燐あるいは重焼燐が用いられる。この燐酸資材は、砕土終了後播種までの期間に散布される。以上のように、農地開発事業と草地開発事業では、土改材の施用法(施用時期、混和深)や使用資材が異なる。一方、土壌化学的には、炭カル施用、土壌の酸性矯正は、燐酸固定力の一因である土壌のバン土性を抑制する。そのため、燐酸の肥効増進対策として、土壌反応を矯正後、燐酸を施用することが良いとされている。そこで、土壌の燐酸固定力に及ぼす炭カル施用、酸性矯正の影響や、現在、多くの場合行われていない9月以降の土壌改良工の、実施可能性の検討も含めて、土改材の施用法(施用時期、混和深)および使用資材について、検討を行うため、牧草を供試作物として、昭和53年度より、圃場試験を開始した。その試験設計の概要と若干の試験結果を中心に報告する。 |