我が国では昭和22年頃から土壌浸食に関する調査研究が始められたが、土地利用の特殊性等により調査研究の対象地は東北、北海道の傾斜地地帯に限られた感であった。歴史の浅い研究分野であったが、集中的な研究により土壌浸食の発生機構、その防止対策法等が提案され一応の成果を得られた。農地保全は土壌浸食防止工事等による保全効果も大きいが、それにも増して農家の関心の程度、これに払れる努力の軽重によりその実績が上るものと思われる。ところが昭和45年頃からの農業を取りまく情勢の変化により、耕地に対する農家の考えも変化し、労働力の減少等により、また農地の荒廃とも言える化学肥料依存の農業経営が営まれたことにより再び農地保全の問題が生じてきた。また国営農用地開発の対象地が平坦地から傾斜地えと移行し、土壌浸食を受けやすい地帯となり、造成工法も階段工や改良山成工など地形の改変をともなう工事を導入するようになり、法面崩壊等による土砂流出の発生も散見され、防災面からも農地保全の重要性が強調されるようになった。ここで早くから土壌浸食防止の重要性を見いだし、その防止対策をうちたててきたアメリカにおける土壌保全の技術、土壌保全のための調査、土壌保全行政等を我が国のそれらと比較しながら概括したい。先ず基本的な姿勢は、国家、社会的見地から必要であり、経済的に見れば国家的レベルで諸行政を進めるべきであるとの観点に立脚している。その発展の歴史は、1935年に土壌保全局 soil conservation service(SCS)が設立され活動が軌道に乗っている。1935~1950年までは、農業に対するサービス的な技術の確立を重要課題とし、土壌浸食の防止対策を打ち出すことに重点がおかれていた。この時期に確立した侵食防止対策技術は、すでに日本にも取り入られており、例えば輪作体系に牧草を作付するとか「等高線耕作(coutour Cultivation)」とか、テラス(階段)工(Terraces)とか、帯状栽培(Stvip Cropping) 水路の設置(water way establishmont)、耕地溜池の設置(farm pomd coswtruction)等である。ところが1950年頃を境に土壌浸食に対する思想が変ってきた。前述の諸技術により個々の農家における耕地面からの侵食防止の効果は上り経営安定の役目は果たしたが、その後の情勢の変化にともない広い地域あるいは国家レベルでの土壌浸食防止の必要性が論ぜられ、総合的土地利用の立場からの土壌浸食防止策が提案された。すなわち治水事業を取り入れた流域全域の土地利用現況や利用計画に基づいた総合的なものえと変化した。我が国における土壌侵食の研究は、戦後の22年頃から漸く取り組まれ、侵食の実態調査や国内の土壌、気象、地形要因を考慮した侵食防止対策の研究が行われ、昭和35年頃までかなり脚光をあびた研究テーマであって、その成果も見るべきものが多かった。特に東北と北海道がその土地利用の形態ともあいまってerrosion研究のメッカであった。しかし一応、アメリカのerrosionに対する理論、実際技術が紹介され、農家に取り入れられるようになった時点をもって、研究面でもほとんど取り扱かわれなくなった。このような一度完了したようなテーマをここで再び登場させるようになったか?それは土壌浸食に対する概念はクラシックなものであるが、その本質においては何ら変りなく生きている研究課題である。時代のニーズにより研究再開となったのである。そのニーズとは、「農用地開発事業が地形条件の劣悪な地区を対象とするようになり、災害防止の面で土壌浸食が重要になってきた」ことである。したがって本課題では、耕地を対象とするより、耕地も含めた山地流域を対象とした土壌の流出、流亡が研究の対象となる。しかし農用地開発という山林原野の自然植生を農地や草地に改変し、階段土においては地形の改変をともなう事業であるので、基礎的研究項目としては耕地面での土壌侵食の知識を得なければならないことは言うまでもない。本研究では現在事業実施地区における侵食現況調査を基に、土砂流出量の把握、計画時期における妥当な流出量の算定方法を見い出そうとするものである。本年度は調査初年目であり事例も少ないが、串内地区(旭川開建管内)の防災計画および相和地区(函館開建管内)の実態調査について報告する。 |